「ポロロロロロロ、ポロロロロロロ」
決してうるさくはないスマートフォンのアラームで目を覚ます。目覚まし時計は随分と前に捨てた。目を覚まし、時間を知るという要望を満たすには、スマートフォンだけで充分である。朝は弱くないと自負しているが、それでも布団から出るためには強い意志が必要である。
晴れているか雨が降っているがは、外の景色を見る前に、外を走る車のタイヤの音でなんとなくわかる。おそらく雨だ。ブラインドの隙間から見える、どんよりと空一面に広がる雲が、正解であると語りかけてくる。
「今日も雨か。散歩はできないな。でもジムには行こう。」
朝にジムに行こうと思っていた時期もあったが、仕事がある日は避けている。
「昨夜は雷もなっていて、あまり眠れなかったな。」
月曜日の布団には、他の曜日には存在しない重力がのしかかっている。散々格闘したのちに、なんとか布団から抜け出した。
学生の頃はスラッと痩せていたが、運動不足や飲み会といったよくある原因で、気がつけば中肉中背になっていた。しかし、そんな自分を受け入れられず、ウォーキングとジムでの筋トレを習慣づけようとしている。最近では、食事制限もはじめた。人間は痩せている方が、似合う服も多いし、髪型も決まりやすい。この考えが、少し古いステレオタイプから来るのか、まだ若くありたいというところから来るのか、考えようとしてやめた。
無意識のうちに髭を剃り、歯を磨く。少し熱めのシャワーを浴びることで、意識を取り戻す。
「今日は一日中内勤か。」
ドライヤーで髪を乾かし、髪をセットしながら今日一日の仕事の流れをイメージする。
スーツにリュックという、どこにでもいる汎用型の労働者に染まり、家を出る。少し前までは、スーツのズボンがきつかったが、最近余裕が出てきたことに、毎日の前進を感じる。少し足取りが軽くなる。
朝は適当に、自宅の最寄駅のコンビニで購入している。少し前までは、大好物のメロンパンを多く食べていたが、ダイエットを決意してからはおにぎりにしている。具は何でもいいが、魚介は食べれない。そう考えると、何でもいいとは言えないのかもしれない。結局、今日はどの具にしたのか忘れた。朝食とおにぎりに対する意識は、その程度の極めて軽微なものである。
最寄り駅に着くと、毎日見る顔の人が、同じ電車を待っている。晴れの日も曇りの日も、そして今日のような雨の日も同じ顔をしている。それぞれがどんな思いを背負っているのか、という以前に、どんな声でどんな話し方をするのかも想像がつかない。想像しようとも思わない。イヤホンをつけて携帯をいじる人が多い中で、本を読む人もいる。新聞を読んでいる人はいない。
電車がやってきた。電車では、座席に座ることはほとんどできない。ドアに寄りかかって、数十分の間自分の世界に没入する。座れるに越したことはないが、ドアに寄りかかるのも嫌いではない。大学の頃は、なぜかわからないが、席が空いていてもドアに寄りかかっていた。ドアに寄りかかると、その時のことを思い出す。大切な時間である。以前はYouTubeで無理やり気分を上げていたが、今はリラックスできるBGMを聴きながら、スマホのKindleでミステリーを読んでいる。
目的の駅に到着すると、会社はすぐそこである。傘を差して10分ほど歩く。
「おはようございます。」
会社に着くと、決して大きくはない声で挨拶をする。声が大きくないのは、大体の場合これが1日の初めての発声だからだろう。
「おはよう。眠そうな顔してるよ。」
隣の席の先輩に声をかけられる。年齢は知らないが、定年までそう遠くはないだろう。朝早くから来ているという噂は聞くが、何時からいるのかはわからない。彼より早く出社したことはない。
「本を読んでいると、眠るタイミングを逃しました。」
意味はないが、軽く嘘をついた。
「何の本を読んでいるの?」
「ミステリーです。面白いですよ。」
「そうか。仕事中に寝るなよ。」
ミステリーは先輩の心に刺さらなかったらしい。
「わかりません。寝てたら起こしてください。」
挨拶もそこそこに、自分のパソコンの電源をつける。一日が始まるという絶望感が襲いかかるが、通勤電車というそこそこ重いイベントをすでにこなしているため、ダメージは少ない。通勤電車も悪いことばかりではないと一瞬思ったが、無くせるのであれば無くしてほしい。
しばらくして、
「おはようございまーーーす」
と、やたら大きな挨拶が響き渡る。課長の出社である。課長はいつも最後に出社してくる。
「すごい雨だね。」
「ほんとですよね。この時期の雨は体が冷えますよね。」
「あーー。」
同感してもらえたのかな?
高そうなコートをハンガーにかけ、独り言を言いながらパソコンの電源をつける。パソコンが立ち上がる間、株の話やゴルフの話をする。しばらくすると、自然に仕事モードに入る。
午前中は何事もなく過ごすことに、全神経を注いでいる。そのためにと言うと怪しいが、金曜日にはあえて仕事を残すようにしている。結果として、月曜日に何から始めればいいかわからないという迷いはなくなる。
お昼のチャイムと同時に課長がすっと立ち上がる。あたりをぐるりと見渡し、目が合った暇そうな人に声をかける。今日は私だった。今日も私だった。
「お昼ご飯、食べに行く?」
「行きます。」
「そうだな、カレーと唐揚げどっちがいい?」
「ではカレーで。」
こういう時、上司に気を遣って、どちらでもいいですよと答えるのは、一番の不正解であると学んだ。そして、最初に出た選択肢が正解である可能性が高いという結論が私の中で出ている。
「カレーか・・・」
どうやら、カレーは不正解だったようだ。
「最近食べられたんですか?」
「食べてないけど、気分的には唐揚げかな。」
「オッケーです。」
じゃあなんでカレーの選択肢を作ったんだ?という疑問は噛み殺すのが、サラリーマンである。
会社の近くの定食屋さんで、唐揚げを食べることになった。
「今でもダイエットしてるの?」
「はい。しています。」
課長はダイエットには否定的である。
「土日はご飯食べたの?」
「なか卯の旨辛親子丼を食べました。美味しいですよ。」
「そうか。今度食べてみるわ。」
「このご時世に490円なんですよ。」
「それはすごいね。」
少しだけ課長の目が輝いた。お小遣い制の課長は、私よりも倹約家である。
唐揚げ定食が来る間も、持っている株が上がったか下がったか、ゴルフの調子がいいか悪いかということを話す。
ご飯が到着すると、何も話さず、食べることに集中する。食べ方にこだわりはないが、課長はとにかく食べるのが早い。何とか課長を待たせないよう、全力でかきこむ。唐揚げの味は覚えていない。800円でエネルギーをチャージした。
月曜日であっても、お昼を過ぎるとエンジンがかかってくる。作業興奮というやつなのだろうか?
「・・・では、よろしくお願いします。失礼致します〜。」
ガチャン。何年経っても、電話対応だけは慣れない。
仕事があり、集中できている時は矢のように時間が流れる。しかし、何もすることがない時は、時間が壁になる。今日は後者だ。
このことは、相対性理論を思いつくヒントにならないかと考えたこともあったが、ならないと結論づけた。
夕方4時になると、自動販売機でレッドブルを買い、近くの椅子で飲む。あともう一踏ん張りで一日を凌げる、と考えると、どんな辛い仕事でもこなせるような気がする。
「今日は株価が下がった。しんどい仕事は明日に回そう。」
株価が上がったか下がったかで4時以降の仕事スタイルが変わるのは、決していいことではないだろう。しかし、今日の給料分ほどのの損失が出ている中で、元気に働くのは難しい。日経平均が40,000円を超えてお祭り騒ぎの中、どうして私だけ負けているんだろうと、切なさがたたみかけてくる。投資に向いていないのだろうと、幾度となく思っている。
「お先に失礼します。」
決して大きくはない声で、会社を出る。声が大きくないのは、残っている人への後ろめたさがあるためだろう。いつも、全体の半分くらいが帰った頃にあがる。これでもだいぶん負担が軽くなった。昨年は忙しく、毎日のように、最後の5人くらいになるまで残っていた。それでも、課長より遅くに帰ったことはない。ここまで来ると、課長が本当に家に帰っているのか怪しくなる。
エレベーターホールで、同じフロアのおじちゃんとエンカウントした。同じタイミングで帰ることがしばしばある。
「おー。今日は早いね。」
「月曜日ですから。」
おじちゃんも電車通勤であるため、駅までの間は世間話をする。
「今日は忙しかったですか?」
「めちゃくちゃ忙しいよ。助けてよ。」
「もちろんですよ。なんでも言ってくださいよ。」
「またまた〜。手伝ってくれない癖に。」
このおじちゃんの業務内容を知らないので、手伝い様がない。
「お気持ちだけ、お手伝いします。」
「いらないわ。」
色々話した。家族のこと、晩酌のこと、飼っている犬のこと。
「じゃあまた明日。」
「お疲れ様です。」
おじちゃんは電車が逆方向なので、改札を通ったあたりで解散となる。滑らかにイヤホンを耳につけ、自分だけの世界に飛び込む。
帰りの電車は座れることが多い。その日の気分で、日記を見たり、音楽を聴きながら目を瞑ったりする。が、眠ってしまったことはない。心配性な一面もあるため、電車では眠れない。そのため、乗り過ごしたということもない。
今日も無事座れたので、この日記を書いていた。
自宅に着くと、着替えてジムかウォーキングに行く。ここではじめて雨が上がっていることに気がつく。会社から駅まで歩いている時に気づいても良かったと思う。しかし傘を指さないということは、傘を指すことに比べてずいぶんと自然なものである。そのため、雨が止んでいることに意識が行かないのも仕方がないと思う。などと考えていたが、会社に傘を忘れてきたことにも気付いた。
「今日は電車の中で日記を書いていたので、完成させてから歩きに行こう。」
最近は、麻雀のMリーグにハマっている。Mリーグを見ながら日記を書くのが、一番の幸せである。唯一の幸せでもある。
〜続く?〜
急にどうしたという話であるが、以前から小説を書いてみたいと思っていた。
今日は、小説風に「自己紹介」兼「普段の暮らし」を書いてみた。
小説を書くための本を色々読んだが、イマイチコツをつかめなかった。
というよりも、小説を書いたことがなかった。
今後は、定期的に小説を意識して書いてみようと思う。
夢は大きく、相対性理論でノーベル物理学賞をとりながら、小説でノーベル文学賞をとり、なんとなくでノーベル平和賞も取ろうと思う。
ノーベル三冠王としての自覚を今日から持っておこう。
今日も読んでいただきありがとうございました。
自分を客観視することが苦手なため、ここをこうした方がいいよ等、ご指導いただけると嬉しいです。
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